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そしてパリ近郊のマルシェで出会うような
diary photo ビー、エル、ティー?!解る人には判る暗号。在りし日の鈴木汀さんとは、仕事を通じて知り合って、同じ夢を分かち合う企画も推進した。1980年代から90年の終わりまで、彼は料理や生活周りのスタイリングが好きで、その好きの線上を主業として歩いていた。
 2000年になると、東京は様変わりし、10年後に私は熊本へ移住した。すっかり汀さんとも疎遠になった期間、公私ともにパートナーだった鈴木ゆうこさんから思わぬ着信があった。
 縁とは不思議なものである。すぐに何の前置きもなく数行のメッセージで以心伝心の関係になった。現在はフードコーディネイターの谷口祐子さんとしてお料理教室をされている。そしてパリ近郊のマルシェで出会うような、ホームメイドの滋養をたっぷり、いちどきにおいしく作れるだけの注文も受けていらっしゃる。
 季節にちなんだメッセージとともに届けられる「CHANTAL」のカルトンは開けた途端に、...Are you going to scaborough fair? まるで草原の食卓のよう。

10月10日
diary photo 小さな植木鉢にセージが3株ほど育っている。植木鉢の中に虫が飛んできて卵を産み、卵が孵って幼虫になると根を食べるので、急に枯れたり、日差しが強すぎて葉の色が悪くなったり、去年あたりから問題の多かったセージだったが、夫が手を尽くしてやっと葉を生い茂らせた。食べごろです。
 綺麗なところを摘んでくれたので、私はそれを洗って、水切りをした。天ぷらにしてもちょっと多すぎたので乾かして冬に使う。三日目、乾いたセージのエッチング植物画的優美さは写真を撮らずにいられない。
  パセリセージローズマリー&タイム…「スカボロー・フェア」を口ずさむ。全部育っているばかりか、どれも香気が高い。セージの枯れた一葉に火を点けて燃やしてみれば青い煙が立ちのぼり、空気が浄化されてゆくような香りがひろがる。

10月20日
diary photo 棚の上に並べてあったオブジェなど熊本地震の日に落下して、ほとんど壊れたり傷ついたりしたものの、補修して救われたものは紙に包んで扉の奥に閉じ込めた。たまたま無傷だったこの鳥の巣も洗面所の片隅に床置きのまま、忘れられてしまいそうな存在だった。しかし、このごろやっとトラウマも薄れてきたのかどうか、隠れて見えなくなった心の隅々に、もういちどスポットを当ててみることにする。
 食堂車のように細長い我が家のキッチンの、ギャレ空間に巣箱を置いてみた。眺めているうち、なんか見たことある、そうだ、まるでジョルジョ・モランディの静物画の色合いみたいだ…じゃあ、石ころ並べてさらにもったりと諧調を深めて。
 この石はロングアイランドの海岸で拾った。秋の入り口の肌寒さに誘われて、アメリカ東海岸の荒い波のくだける音とともにどんよりした浜景色がよみがえる。