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きび糖をバターで少し焦がした。
diary photo 全国的には薩摩芋(さつまいも)、熊本では(からいも)と呼ぶのは唐の時代に中国から伝わった由縁だそうだ。近年は品種改良も盛んで、紅系、パープル系、シルキー系と甘さも食感も豊富に選べるが、私はきんとき唐芋の持つ甘みと食感に素朴な味わいを感じる。その唐芋を使ってスイートポテトを作ってみたくなった。
 スイートポテトといえば代官山の小川軒の優しい舌触りと甘さが秀逸…今もあるだろうか、むかしはこれを買いに行くのが楽しみだった。しかし、今回はどちらかというと、素朴な方向を目指してみた。膨らんだボート型に代えて直角の断面を。
 唐芋をふかして裏ごしした。きび糖をバターで少し焦がした。これを混ぜてよく練って角型に入れ、表面にフォークで畝を作り黄身を塗る。185度のオーブンで40分焼いたら Autumn color of the harvest moon… 石焼的唐芋羊羮の風貌に。

11月10日
 去年の夏用に作った白い麻のオープンカラーのボックスシャツは凛として新鮮だった。今年は冬に向かって白い綿シャツを作りはじめた。1960年代に流行した、セーターの外側にシャツの裾を出して着るスタイルは冬の海辺に似合いそう。
diary photo  オープンカラーは襟芯を入れずに、首の後ろ側中心に半円の2枚を台にしてカーブをステッチで押さえる。これで襟がペタッと寝ない。シャツたるものは後ろ姿が命であるとの信条より、背中に箱襞、ヨークにフック用の吊るし紐。着終わって風通しに吊るしたシャツの佇まいまでもインテリアのなかで一幅の絵のように。
 デザインが決まったら、去年の型紙を写し取って、幅や丈を今年の気分に合わせて微妙に調整した。さて、生地をカットし終えて下ごしらえにかかろう。全パーツの端にうす糊を筆で染ませて干せば、心地よさそうに風に揺れている。

11月20日
 往年のシャンソン歌手、イベット・ジローさんが1970年に出版された料理本『イベットジローの家庭料理』は初めてのフランス料理の手引きだった。なかでもキャトルキャールという、いかにもフランスらしい響きの Quatre-Quartsは、読んで字のごとく卵、バター、粉、砂糖の4つの材料を等分に練る焼き菓子。子供が初めて出会うような基本的な存在かもしれない。私も真っ先に作ってみた。
diary photo  その後『洋菓子の研究』という暮らしの設計誌のスタイリストに携わったときのこと。当時六本木にあったアンドレ・ルコントさんの店で名品マドレーヌの作り方の貴重な現場を見せていただいて、お菓子というのは研究に値する深いものだと知る。
 それから数十年の月日を経た今、まさに、『あのひとの洋菓子』の基本をなぞって作り始めた私は、反復と再発見と発展のただ中にある。今回は、あのひとのオレンジママレードとグラン・マルニエを加えたキャトルキャーラオランジェを。