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偶然にもあのセミナーを受講していて
 『Heima』はインテリアスタイリストの石井佳苗さんの美しい一冊、圧巻です。ライターの一田憲子さんの『人生後半、上手にくだる』は引き込まれるテーマと描写に一気読みです。2冊に共通するその熱量は遠赤外線のように心の芯を温める。
diary photo  新宿パークタワー・リビングデザインセンターOZONEの1993年開館以来20年近くリビングデザイン講師をしてきました。自分のキャリアの中ではもっとも長く続いたことが誇らしい。
 くらしと仕事を自分らしく実践するライフスタイルの探求、ちょうど人生の岐路に立つ年頃の受講生たちは真剣そのものでした。
 そして今年の秋、偶然にもあのセミナーを受講していて、乾いたスポンジのようにエッセンスを吸収したと言ってくださるお二人から著書が送られてきました。
 表紙を眺めてぱらぱらとめくって、なぜか最後のページから読みはじめる癖が。 reel essence in the end of the line. そこに彼女と私の繋がる対話があります。

12月10日
 寒さとともに各地から季節の贈りものが届いて、毎年12月になると今年の出来はと胸踊る。カーサ・モリミより、秋に予約しておいたイタリアの搾りたての深翠色カペッツアーナのエキストラバージンオリーブオイルと、パネットーネの到来。 diary photo
 イタリアではクリスマスに食べる伝統の焼菓子というお話だが、我が家では届いた日から朝のコーヒーとともに、ひと口分を指でちぎって頬張る。ふわり、それから少しねっとりした食感に変わるときが濃くて甘い、まさに醍醐味というのか。
 その合い間ごしにレーズンやオレンジピールをかみしめたときの風味が訪れる瞬間を逃してはならない。
 この祝祭のために60〜80時間も生地を発酵させて育んだ聖母のような優しさは、他の何を持っても代えがたい。発酵がもたらす、時とともに奏でる粉と乳の味わいの変化を、ちょうどクリスマスの誕生日をもって食べ尽くす。

12月20日
 「きみは本当に愛するシャツを持ってる? ゴキゲンな着心地の一枚。古くなっても気にしない、さらに心地よく自分らしいかけがえのないシャツになる」これは1969年にリリースされたドノバンの"I love my shirts"という曲のフレーズだ。 diary photo
 白いシャツとブルージーンと靴と、シンプルで大好きなものだけを揃えるワードローブの詩は若者のライフスタイルの象徴だった。
 そしてそれは今も自分の身だしなみの礎になっているのだなあとしみじみ。とある時期から自分の欲しくなるようなニュアンスの一枚をなかなか探せず、クラシックな「シャーツの仕立て」技法を学びながら、昔着ていたシャツをほどいては型紙を写して保存する。
 新しい年に着ようと、先月はじめにカットを終えたのに師走モードの慌ただしさに埋もれそうなある時、後ろ姿の凛々しいシャツが脳裏によみがえり、気持ちを奮い立たせて遂に完成させた。